「な、何でそうなるんですか。本気で〝私〟と結婚する気なんですか?」
ウィリアム様の言葉の意図が全くわからない。
そもそも結婚しようとプロポーズしている相手は誰なのだろうか。
私、リリーへ言っているものなのだろうか。
それともレイラ様に言っているものなのだろうか。
後者なら周りへ向けたパフォーマンスとして捉えるが、私たちの会話を全て正確に聞き取れるほどの距離に今、人はいない。やる意味のないパフォーマンスだ。
そして前者なら本当に意味のわからないお言葉だ。
これから男爵家の娘に戻る予定の何も持たない完璧ではない者に、あの何もかも完璧でなければならないシャロンのウィリアム様がプロポーズなどどう考えてもおかしすぎる。
「おかしな質問をするんだね。俺たちは婚約しているんだよ?結婚も当然するよ?」
ずっとウィリアム様のせいで挙動のおかしい私をウィリアム様がおかしなものでも見るような目で見る。
いやいやいやいや。その視線を向けたいのは私の方である。
「…いいえ、違います」
なので、私はウィリアム様にしか聞こえない小声でウィリアム様の言葉を否定した。
「アナタが婚約している相手はレイラ・アルトワ様であって、私ではありません。アナタが結婚に望む相手は完璧なご令嬢、レイラ様でしょう?」
目の前にいるおかしなことを言うウィリアム様にきちんと現状を伝える。
きっとウィリアム様もそこはわかってはずなので、「そうだよ。君と結婚したいと言っている訳ではないよ」と少しだけ哀れそうに笑って頷いてくれるはずだ。
そう思っていたのに。



