この計画をスムーズに進める為にも、ホンモノのレイラ様の存在は、世間にはまだ伏せていなければならない。
なので、レイラ様が帰ってきたあの日、現場にいた、または噂話を聞いた使用人たちには、ホンモノのレイラ様について口外することを固く禁じられ、私とレイラ様を双子として扱うように命令されていた。
ちなみにレイラ様の今限定の名前、〝アイリス〟は記憶を失っていたレイラ様がお世話になっていた村人たちに名付けられた名前らしい。
「家族5人揃って食事ができるのはやはりいいな、セイラ」
「ふふ、そうね」
何事もないように幸せそうに笑い合っているアルトワ夫妻の姿を見て、私は表向きはにこやかに、だが心の中ではそんな夫妻に苦笑いを浮かべていた。
この夫妻は6年前からずっと本当に優しく人格者なのだが、やはりしっかりぶっ飛んでいる。
12歳の私がレイラ様と瓜二つだからと、レイラ様の代わりにするような夫妻なのだ。格が違う。
「アイリス姉さん、子どもの頃行った海、覚えてる?あそこで姉さんがみんなに魚を食べさせるって釣りを始めてさ」
「ええ、もちろんよ。たくさん釣れて楽しかったことも覚えているわ」
「そうそう。あの時の姉さん、本当にすごかったよね。最初は上手くいかなかったけど、すぐコツを掴んでどんどん釣ってて。楽しかったし、美味しかったなぁ」
「ふふ。釣れるたびに大喜びするセオドア、とっても可愛かったわねぇ」
私の左隣で繰り広げられるているのは、いつもの大変仲睦まじいセオドアとレイラ様の会話だ。
何度見ても幻かな?と思うほど愛らしいキラキラ笑顔でレイラ様に話しかけるセオドアとそんなセオドアを愛おしげに見つめるレイラ様もやはりよく似ていた。
2人ともとても美しく、まさしく美形姉弟だ。
レイラ様とセオドア、机を挟んで奥方様に、机の奥には伯爵様。
4人からとても血の繋がりを感じる。私の目に映る人物、全員とんでもない美形だ。
「懐かしいわねぇ。アイリスは何をやらせてもすぐ上達するからいつも驚かされたものだわ」
セオドアとレイラ様の会話に懐かしそうに微笑みながら奥方様が入る。
「そうだな、セイラ。海での思い出といえば、レイラが船を一から作りたいと言い出したこともあったな」
それから伯爵様も同じく懐かしそうに会話の中に入っていた。



