姉さんが帰ってきたことによって、僕は二つの恩恵を得た。
一つはもちろん僕の姉さんが帰ってきたこと。
そしてもう一つが、アイツがもう僕の姉さんではなくなったということだ。
考えたくもない最悪の未来だが、もしあのまま一生僕の姉さんがアルトワに帰ってこなければ、アイツはずっと僕の姉さんの代わりだった。
いくら愛しても、手に入れることのできない存在だった。
それが姉さんが帰ってきた今、姉ではなくなったアイツと僕は結婚できるようになったのだ。
お父様もお母様もアイツのことを本当の娘のように大事にしている。
姉さんが帰ってきたからといって、姉さんと同じように愛情を注いできたアイツを手放しはしないだろう。
そこでさらに僕とアイツが結婚するとなれば、また違う形でアイツと家族になれると2人は喜び、僕たちの結婚を後押しするはずだ。
そうなれば、アイツは確実にアルトワの一員として、ここにずっと居られる。
お父様とお母様。それから最愛の姉さんに心から愛する人。
大切な家族に囲まれた僕の未来は明るく、愛に溢れている。
ーーーーそう思っていたのに。
姉さんが帰ってきた夜。
いつものようにアイツの傍で過ごそうとアイツの部屋に行くと、アイツはクローゼット部屋で1人、隠れるように荷造りをしていた。それもここから出て行くために。
アイツがここから出て行く準備をしているかもしれない、そう気づいた瞬間、怒りが込み上げ、頭がおかしくなりそうになった。
そしてはっきりと「ここから出る」と言われた時、抑えきれない衝動に駆られた。
目の前にいる愛らしい存在を許せなくて許せなくて仕方なかった。
出て行くだなんて許さない。
アイツはこれから先、未来永劫、アルトワの人間なのだ。
僕と結婚してそれを確固たるものにしてやる。
「そんなことできるの?」
姉さんが帰ってきてから3日ほどが経った。
僕は今日もアイツの部屋で、いつものように数人は座れる大きなソファに腰掛け、僕の隣でハンカチに刺繍をするアイツの肩に自身の頭を預けながら、何となくそんなことを聞いていた。



