その完璧さとよく似ている見た目で、上辺だけは姉さんによく似ていたアイツだったが、実際に蓋を開けてみると、アイツと姉さんは何もかもが違っていた。
そうなるように僕が仕向けたのだ。
常にアイツの傍で目を光らせ、アイツが何かを選択する度に、「姉さんはこっちの方が好き」だとか、「姉さんは実はこっそりこっちを推していた」などと、姉さんとは全く違う趣味のものをアイツが選ぶように誘導してきた。
その結果、僕は見事にアイツを上辺だけ姉さんとよく似た、姉さんとは違う別の何かにすることに成功したのだ。
そんな日々を続けていたある日のこと。
ついに待ち望んでいた日がやってきた。
僕の姉さんがついに、ここアルトワに帰ってきてくれたのだ。
玄関ホールで姉さんの後ろ姿をみつけた時、僕は奇跡が起きたのだと思った。
そしてどこかにいるであろう神とやらに感謝した。
この6年間、ずっと姉さんの帰りを待っていたが、正直、日が過ぎていくにつれ、もう姉さんは帰ってこないのかもしれない、と諦めに近い思いを抱いてしまっていたからだ。
「セオ!」と、6年前と変わらず、僕の呼びかけに応えた姉さんに、僕は天にも昇るような気持ちになった。
2人の時だけに呼んでくれていた懐かしい愛称を呼ぶ記憶の中の姉さんの声が、大人になった姉さんの声で塗り替えられていく。
こちらを見つめる美しすぎる星空のような濃い青色の瞳に、胸の上ほどまである艶やかな黒髪。
大人になり、さらに美しさに磨きがかかった、触れることすらも許されない雰囲気を放つ神秘的で人間離れした美しさのある僕の姉さんは、何もかも全てが美しかった。
歓喜の中でそう思ったのと同時に、ふと僕の頭の中にアイツの姿が過った。
6年前までは、確かに姉さんと瓜二つだったアイツ。
けれど、今の2人はもう全く似ていなかった。
系統こそ似ている気もするが、僕の姉さんが触れられない高嶺の花なら、アイツは思わず触れたくなる美しい花、なのだ。
僕は改めて2人を見て、僕の今までの全ての行動に、心から拍手を送った。
僕がアイツの傍で目を光らせ続けたお陰で、当初の狙い通り、アイツを姉さんとは完全に違う別の存在へとできたのだ。
アイツのことは姉さんがいなくなった穴を埋める存在で、ずっと気になって仕方のない存在だった。
姉さんの場所に勝手にいる邪魔なやつ、何もできない惨めなやつ、など、この強く興味を引き、目を離せられない衝動は、最初はそういった負の感情からくるものだと思っていたが、徐々にそうではないのだと気がついた。
アイツが笑うと僕も自然と笑顔になれるし、アイツが泣けばその原因の全てを殺してしまいたくなる。
歩く姿を見つけては目で追い、僕が決めた服やアクセサリーを身にまとう姿に〝愛らしい〟と何度も何度も思い、僕のものになったかのようなアイツを見て、満足する。
こんな感情が負の感情だとは思えない。
僕はアイツを…、姉さんの隙間に無理やり入ってきた、憎むべき対象を、いつの間にか愛していたのだ。



