逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。





sideセオドア


アイツを、姉さんの代わりであるあのニセモノを、中身だけでも別物にしたかった。アイツが間違ってもホンモノの姉さんに成り代わらないように。
その為にも僕はアイツの傍から四六時中離れないと決めた。

そしてそう決めてから6年の月日が流れた。

この6年、アイツは努力に努力を重ね、6年前の姉さんと同じように、この国一の令嬢と呼ばれる存在へと成長していた。

きっと6年前の僕に今のアイツの周りからの評価を教えても、絶対に信じないだろうし、鼻で笑うだろう。
それだけ6年前のアイツは本当に酷かった。

仮にも男爵令嬢だったにもかかわらず、まるで教養のない平民のように何もできず、何も知らない無能で、姉さんの代わりなんて務まるはずのない、完璧とは程遠い存在、それが6年前のアイツだ。
何度何もできない、同じ間違いばかり繰り返す無能なアイツに呆れてきたことか。

それが今では誰もが認めるこの国一の令嬢なのだ。
シャロン公爵家との婚約がなければ、アイツはおそらくどこの家門からも求婚されるような引く手あまたの存在へとなっていたのだろう。
本当に未来とはわからないものだ。

見た目も艶やかな黒髪を腰まで伸ばし、顔立ちもこの6年で随分大人っぽくなり、綺麗さにも磨きがかかった。
とても美しいが、その中に愛らしさまである花のような人。それが今のアイツだ。

この国一の令嬢で、完璧で愛らしい見た目。
12歳だった姉さんが、18歳に成長したらこうなるのでは、という存在にアイツは見事になれていた。

だがしかし、それでもアイツは決定的に姉さんとは違った。
まずは身に付けるものの趣味だ。
僕の姉さんが好んで選んでいたものは、淡い色合いの美しい中にも、神秘さのあるものだったが、アイツが選び、身に付けるものは、どれも色のない、質素だが、高級感のあるシンプルなものだった。

また食の好みも同じように違った。
姉さんは魚料理好きだったが、アイツは肉料理の方が好きだった。
さらに、お菓子に興味を示さなかった姉さんとは違い、アイツはお菓子好きで、特にクッキーに目がなく、今では最高の一枚を作るのだと、自分で作り始めるほどだった。
僕の姉さんはもちろん料理などしない人だ。