「…戸籍なんてなくてもフローレスには戻れるよ。そんな理由でお父様とお母様が私を受け入れない訳がないし」
セオドアの意外すぎる一面に驚きながらも、淡々とセオドアに事実を伝えると、セオドアからまた笑顔が消えた。
セオドアの氷のように冷たい青い瞳から放たれる視線が私を射抜く。
「…そんなこと許されるはずがない」
そしてセオドアから出た囁きに、私は自分の耳を疑った。
許されるはずがない?
セオドアは確かにそう言った?
本当に?
そもそも許す許されるの問題ではないのでは?
「戸籍も何もないお前のような人間はこちらが許さないと言えば従うしかないだろ?僕はお前がフローレスに戻ることを許さない」
「…」
冷たいセオドアから放たれた言葉に私は何も言えなくなってしまう。
まさかここで身分の話をされてしまうとは。
セオドアの言っていることは正しく、男爵家の娘どころか、戸籍さえもない、何者でもない私では、身分が圧倒的に上であるセオドアの命令には逆らえず、従うしかない。
何故、セオドアは、私がアルトワ家から出ていくことにこんなにも強く反対するのだろうか。
その理由を知りたいのだが、セオドアの性格上、それを私に素直に教えるとは思えない。
もちろん考えてもセオドアの真意なんてわかるはずもないので、私はセオドアの真意について考えることを早々にやめた。
「お前はアルトワの人間だ。わかった?」
「…う、うん」
冷たく私を見るセオドアに今度は頷く。
ここで無理にセオドアを説得しようとしなくてもいいだろう。
セオドアの考えはよくわからないが、どうせセオドアが許さなくても、アルトワ夫妻なら私がここから出ることを許してくれるはずだ。レイラ様がいる以上、私はもう必要のない存在なのだから。



