「お前はもうアルトワの人間だ。何でここから出るんだよ?」
そしてセオドアはそう言って笑った。
私を責めるような厳しい目で。
私がアルトワの人間?
それをあのセオドアが言うの?
レイラ様の代わりとして仕方なく、私の存在を許していたあのセオドアが?
「…私の役目はもう終わったんだよ。私はレイラ様の代わりであって、アルトワの人間では…」
「アルトワの人間だよ」
セオドアの言動に疑問を抱きながらも、セオドアの言葉を淡々と否定しようとする。
だがしかし、そんな私の言葉は冷たく力強いセオドアのたった数文字の言葉によって遮られた。
「…違うよ。私はフローレスの人間だよ」
それでも私は怯まなかった。
セオドアの怖さも冷たさも、正直この6年間で嫌というほどセオドアから向けられてきたものなので、もう慣れてしまった。少々のことでは怯まないし、自分の主張だってできる。
真っ直ぐとセオドアを見ていると、セオドアは「はっ、お前がフローレスの人間?笑わせる。お前は本当に脳内お花畑なんだな」とまたおかしそうに笑ってきた。
それから私と目線を合わせるようにその場に屈み、心底哀れそうに私を見た。
「リリー・フローレスはお前がここへ来たあの日に死んだんだよ。リリー・フローレスの戸籍はもうこの世のどこにもない。だからお前はフローレスの人間ではないんだよ?」
まるで何もわかっていない小さな子どもに一から全てを教えるように微笑むセオドアだが、怖さと冷たさはまだ健在だ。
そんなセオドアに私は思わず目を見開いた。
セオドアの口から私の本当の名前、リリー・フローレスという名が出たからだ。
セオドアが私の本当の名前を知っていたなんて。
レイラ様の代わりではない私の部分なんて全く興味がないと思っていたのに。



