逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。





「ウィルは水かけ祭り、知ってた?」



話の流れの中で、レイラ様が今度はウィリアム様に話を振る。
するとウィリアム様はいつもと変わらぬ笑みを浮かべて、頷いた。



「まぁ、名前だけはね。あまりここら辺では聞かない祭りだけど、国境付近の村ではあるとかないとか」

「そうそう。こっちの地域って王都周辺に比べたら暑いから、村人が耐えられなくて始めたそうなのよ」

「そうなんだね」



微笑み合うウィリアム様とレイラ様はなんて様になるのだろうか。
この2人だからこそ生み出せる柔らかな雰囲気に、私は私が今までウィリアム様と築いてきた関係が、どんなに本来のものとはかけ離れているものだったのか、痛いほどわからされてしまった。



「…」



アルトワ一家とウィリアム様の続くやりとりを、私はただただ傍観し続ける。
ここでの私は何者でもなく、ただの部外者で蚊帳の外だ。

だが、そのことを私は全く嘆いていなかった。
むしろ、自分の役目は終わったのだと安堵していた。

この6年のアルトワ伯爵家の手厚い援助のお陰でフローレス男爵家は再建に成功し、没落寸前ではなくなっていた。
さらに2つほど事業も始め、その内の1つはもう軌道に乗り始めている。
今、アルトワ伯爵家の援助がなくなれば、また苦しくはなるだろうが、前のような没落寸前状態にはならないだろう。

それに前と違うのは、きちんとした教育を受け、優秀になった私、大人のリリーがいる。
私がいれば、少しは戦力になるはずだ。