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ホンモノのレイラ・アルトワ様が帰ってきた。
あの玄関ホールでの騒ぎは、レイラ様帰還の騒ぎだったようだ。
最初こそ、レイラ様の成長した姿に、あのレイラ様であると、私は気づけなかった。
だが、それでも、よく見るとレイラ様の面影を残す彼女と、そんな彼女との再会を喜ぶアルトワ伯爵一家を見て、私は彼女こそが、私がずっと代わりを務めてきたホンモノのレイラ様だと確信した。
私が肖像画でいつも見ていた12歳のレイラ様は可愛らしさの中にも美しさのある愛らしいご令嬢だったが、今のレイラ様はその面影を残しつつも、美に全振りした絶世の美女になっていた。
今のレイラ様は本当の弟、セオドアととてもよく似ている。レイラ様と瓜二つだという理由で、レイラ様の代わりとなった私とはもう瓜二つではなくなっていた。
あの場での私はただの傍観者で、呆然とアルトワ家の人々を眺めていたのだった。
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「…レイラ、よく戻ってきてくれた」
ソファに腰掛け、伯爵様が感極まった表情でレイラ様を見つめている。
そんな伯爵様の横では奥方様が未だに涙を流していた。
「お父様、お母様、ご心配おかけしました」
この6年間、事故の後遺症により、記憶を失くし、平民として生きてきたとは思えないほど、2人に美しく一礼するレイラ様にさすがホンモノは違う、と感心してしまう。
ここは伯爵邸内にある談話室。
あの後、玄関ホールでは流石に長話はできないとなり、アルトワ一家と私とあの場にたまたま居合わせたウィリアム様は、落ち着いて話す為にも、レイラ様とここへ移動していた。
そして入り口から奥側のソファにアルトワ夫妻が座り、そのソファの左手前のソファにレイラ様とセオドアが、机を挟んでこちら側のソファに私とウィリアム様が座る形で話は進められていた。
レイラ様の話によると、事故に遭った時、レイラ様は馬車の大きな残骸と共に川へと落ち、運良くその残骸の上に乗る形で流されてしまったそうだ。
夏だったということもあり、寒さによるダメージもなく、そのままとある村の人たちに助けられたレイラ様だったが、事故の後遺症により、この時、レイラ様は記憶を失ってしまっていた。
記憶を失ったレイラ様は、自分が本当は誰なのかわからないまま、平民の娘として、優しい村人たちと、この6年、楽しく生活していたようだ。
だが、ほんの数ヶ月前、レイラ様は断片的だが、記憶を思い出し始め、つい1週間ほど前に全てを思い出したそうだ。
そしてレイラ様は思い出したレイラ・アルトワであった自分の記憶と、様々な人の手を借りて、自力でアルトワ伯爵邸まで帰ってきたのだった。



