甘く微笑んでいるウィリアム様を見て、セオドアはまた怪訝な顔をしていた。
それから「…お義父様、お義母様と呼ばないでください」と本当に嫌そうに言っていた。
馬車から降りた私たちのすぐ目の前には、伯爵邸の立派な玄関がある。
その玄関の扉の向こう側が、何故かいつもの落ち着いた雰囲気とは違い、とても騒がしい気がした。
何かあったのだろうか?
そんな騒めきを不思議に思いながらも、私たちの傍にいた使用人に扉を開けてもらう。
すると玄関ホールにはいつも以上にたくさんの人が集まっていた。
玄関ホールの大きな階段の目の前には、伯爵様と奥方様が。それから2人を囲うように使用人や騎士が何人もいる。
彼らは全員、ある人物に様々な視線を向けていた。
こちらに背を向け、アルトワ夫妻の前に佇む少女。彼女こそがこの騒ぎの中心なのだろう。
質素な平民が着るような茶色と白色のワンピースに身を包むスラリとした体に、鎖骨あたりまである艶やかな黒髪が印象的なその後ろ姿は、見た目は平民のはずなのに、どこか普通ではない、高貴な雰囲気を持っていた。
そんな少女を見て、奥方様は泣き崩れ、伯爵様も耐えるように涙を堪え、嬉しそうに少女を見つめていた。
初めて見る背中だ。
あの少女は一体誰なのだろうか。
後ろ姿だけでは正直この騒ぎの中心にいるあの少女の正体はわからない。
「…さん」
訳がわからず立ち尽くしていると、私の隣に立つセオドアから小さな声が聞こえてきた。
「姉さん!」
セオドアの感極まった声がこの玄関ホールに響き渡る。
姉さん?
セオドアが姉さんと呼ぶ人物は2人だけだ。
1人は私、ニセモノのレイラ様に。そしてもう1人は…。
セオドアに呼びかけられて、少女がこちらに振り向く。
端正な顔立ちに星空のような青色の瞳。
そして右目の下にはセオドアと同じホクロが。
「セオ!」
少女は嬉しそうに笑うと、駆け寄ってきたセオドアを愛おしげにぎゅっと抱きしめた。



