「どうしたの?レイラ」
「私と一緒に帰りたいのでしたら、こんなところで寝てないできちんと約束の時間に約束の場所に来てください」
セオドアに向けるものとは違い、私に優しく微笑みかけるウィリアム様を私はギロリと睨みつける。
するとウィリアム様は全く反省していない様子でとてもいい笑顔を私に向けた。
「ごめんね、レイラ。君に俺を探して欲しかったんだよ。俺は俺に従うしかない君を見ると安心するんだ」
何と最低な発言なのだろうか。
あの国一完璧な王子様のようなシャロン次期公爵様がまさかこんな最低発言をするとは、国中の誰もが信じられない話だろう。
未だにいい笑顔を全く崩さないウィリアム様に怪訝な顔をしていると、斜め前にいるセオドアも私と全く同じ顔をしていた。
ウィリアム様に出会った頃、ウィリアム様はサイコパスである、と伝えてもなかなか信じなかったセオドアだったが、私の隣でウィリアム様の本性を見続けた結果、セオドアは、今では私のウィリアム様はサイコパス発言もしっかり信じてくれていた。
ウィリアム様に、クソ野郎。と一言言ってやりたいが、もちろん言わない。残念ながら私の身分では、そんなことをウィリアム様に言えないのだ。
「…セオドア、帰ろう」
「そうだね、姉さん」
どちらにせよ、ウィリアム様とはもう帰る気がなかったので、私はすぐ傍いるセオドアに声をかけて、ウィリアム様に背を向けた。
今の私は血の滲むような努力のおかげで完璧なこの国一のご令嬢だ。
名実ともにこの国一のご令嬢になったレイラ様の代わりである私を、全てにおいて完璧でありたいシャロン公爵家は認め、望んでいる。
アルトワ伯爵家が是が非でもウィリアム様との婚約を続けたいように、シャロン公爵家もまた私との婚約を続けたいのだ。
なので、ウィリアム様の機嫌を損ねすぎることは良くないが、こんな小さな反抗くらいなら許されていた。
6年前の私たちには圧倒的な上下関係があったが、今はほぼ対等な関係なのだ。
空中庭園の外へと向かって歩く私の後ろからセオドアの足音が聞こえる。
それと同時にもう一つの足音も遠くから聞こえてきた。
「送るよ、レイラ」
気がつけば私の隣には涼しい顔をして笑うウィリアム様がいた。



