「…」
そんな私に思うところがあるのか、セオドアは難しそうな顔で私を睨んできた。
それから少し黙った後、口を開いた。
「何があったのか知らないけど休んだ方がいい。今にも倒れそうな顔色だ」
何と珍しいのだろうか。
あのセオドアが冷たい表情のままとはいえ、私のことを心配する素振りを見せるとは。
予想外のセオドアからの心配に思わずぽかーんと口が開いてしまう。
だが、しかしそう思えたのもほんの一瞬だけだった。
「そもそもお前はもう18だろう?自己管理もできず、ふらふらしているとは情けない。アルトワのご令嬢が聞いて呆れるよ」
「…あーはいはい」
やっぱりいつもの冷たくて口うるさいセオドアに私は苦笑いを浮かべる。
あのセオドアが私の心配なんてするはずがないのだ。
心配の先には必ずアルトワ家が、レイラ様がいる。
「帰りたいけど帰れないんだよ。ウィリアム様と一緒に帰る約束をしていたから一言言ってからじゃないと」
嫌味を言ってきたセオドアに私は仕方なく事情を説明する。
すると、それを聞いたセオドアは何かを考えるように黙ってしまった。
そして数秒して「僕も一緒に探す」と言ってきた。
「いやいいよ。ウィリアム様がどこにいるのか大体見当はついているし。1人で大丈夫だから」
「うるさい。僕に逆らうな。ウィリアム様を見つけ次第、お前は僕と一緒にさっさとアルトワに帰るんだよ」
「…えぇ」
断る私を睨むセオドアに何も言えなくなる。
…知らないうちにセオドアと一緒に帰ることになっているんだけど。
「お前のようなノロマ放っておけないだろ?お前はあくまで完璧な姉さんの代わりなんだ。人の前では常に完璧であれよ。今みたいに隙を見せるな」
相変わらず冷たい表情で私に呆れたように小言を言うセオドアに私は思った。
先ほど一瞬だけ見せたセオドアが私を心配する素振りは幻だったのだ、と。



