逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。




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今日の帰りは、ウィリアム様が公爵家の馬車でアルトワ伯爵邸まで送ってくれると言った。
なので、私はウィリアム様のことを待ち合わせ場所である、学院内の噴水の前でずっと待っていた。
…そうもうずっとだ。

季節は夏休みが終わったばかりの夏。
正直、夏の日差しの中で、ずっと日陰のない場所に立ち続けることは辛い。
額からはじわじわと汗が出ており、暑さが私を襲う。

…遅すぎる。

チラリと噴水から見える大きな時計に視線を向けると、時刻は16時半を指していた。

ここでの待ち合わせ時間は16時だ。
もちろん約束の5分前にはここへ来ていたので、もう30分以上もここでウィリアム様を待っていたことになる。

またいつもの嫌がらせか。

ここまで全く現れる気配のないウィリアム様に私は今自分が置かれている状況を何となく察した。

ウィリアム様と私の関係は出会った頃に比べて随分穏やかなものへと変わった。
だがしかし、穏やかなものへと変わっただけで、根本は何も変わっていない。
6年前のようにウィリアム様が私に直接手を出すような嫌がらせをしてくることはなくなったが、こうして時折約束をすっぽかすなどの地味な嫌がらせは続いていた。

本当に最悪だ。あのエセ王子様め。

文句しかないし、苦手意識もあるが、それでも私は、心の底からウィリアム様を嫌いになることができなかった。
何故なら、ウィリアム様のシャロン公爵家での立場を意図せず6年前のあの日に知ってしまったからだ。
あのエセ王子様にもそれなりのあんな感じになってしまった事情があるのだ。

…だからって私に何してもいいわけじゃないけど。



「はぁ」



私は約束の相手であるウィリアム様を見つける為にため息を吐き、噴水の前を後にした。