逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。




その結果がこれである。
セオドアは基本何でも受け入れる私に過剰なまでに干渉するようになった。
どうやらセオドアは私の演じるレイラ様を何でも自身の思い通りにしたいらしく、思い通りにするためならば、私の世話まで焼きたがるのだ。

完璧な姉さんが公衆の面前でウィリアム様といい雰囲気になり、赤面したことがセオドアは気に食わなかったのだろう。
レイラ様はそんなことはしない、と。
だからそれをリセットするために私をウィリアム様から引き剥がすし、お風呂にまで入れさせたいと考えているのだ。



「まぁまぁ、セオドア。こんなことで君の姉さんの評価は落ちないよ?むしろ上がっているんじゃないかな?」

「そんな訳ありません。公衆の面前で人の目も気にせず、あんなことをして、軽い女だと思われたらどうするんです?」

「その相手が他の男なら問題だけど俺だから問題ないでしょ?俺はレイラの婚約者なんだから」

「そういう問題ではありません。受け取り方は人それぞれですから。姉さんの悪い噂の元になるものは何一つ許せないんです」

「悪い噂にはならないよ。むしろ仲の良い婚約者同士として微笑ましく見られているからね、俺たち」

「ですが…」



にこやかなウィリアム様としかめっ面なセオドアのよく見る言い合いに私は苦笑いを浮かべる。
この2人、全く意見が合わず、会うたびにだいたい口論をしているのだ。

この6年で、2人と私の関係は大きく変わった。
未だにレイラ様が消えた穴を埋めるようにそこにい続ける私を、相変わらずレイラ様が大切な2人は気に入らないようで、嫌味や小言、小さな迷惑行為を度々私にしてくる。

それを受ける度に、私は2人のレイラ様への想いを感じていたが、2人の想いを感じるだけで、それ以上の感情はなかった。もう慣れた。

それにもうやられっぱなしの私ではない。
この6年で完璧なレイラ様になれた私は、たまにどうしても嫌なことがあれば嫌だと言えるようになっていた。
完璧なレイラ様になれたからこそできる選択だ。

最初の頃のように、もう完璧ではないレイラ様になってしまうことにも、そのことによって存在価値を証明できなくなってしまうことにも、怯えなくていい。
たまの反抗くらいなら許される、そんな関係だ。

私たちの関係は一言で言うなら、歪ながらもどこか穏やかなもの、ではないだろうか。
本当にこの6年で変な関係を彼らと築いてしまったものだ。