ーーーー早く要件を言って帰ろう。
先ほどの公爵様との会話を私が聞いていたことをウィリアム様も察しているはずだ。
正直、今のウィリアム様に私が言えることなんてない。
聞いていなかったフリをしたほうがいい。
「ウィリアム様、今日は…」
ありがとうございました。私はここでお暇します。
そう言いたかった。だが、それをウィリアム様の言葉が遮った。
「聞いていたんだよね。レイラ」
「…」
聞いていなかったフリをしたかったが、それはどうやら無理らしい。
微笑むウィリアム様に私は思わず押し黙る。
「無言は肯定と一緒だよ」
そしてこれがウィリアム様の言葉への肯定になってしまった。
苦し紛れにでも「聞いていない」と言えなかった少し前の自分の行動に後悔する。
そんな私なんて気にも留めずに、ウィリアム様は「こっちにおいで」と自身が座っているソファの隣をぽんぽんと手で軽く叩いた。
ウィリアム様を無視することなんて当然できず、私はウィリアム様に言われるがまま、ウィリアム様の側に行き、ウィリアム様の横に腰を下ろした。
「俺はシャロン公爵家の次期当主だからね。完璧であり続けないと存在価値なんてないんだ。君と同じでね」
自身の横に座る私を嬉しそうに見つめながらウィリアム様が私の髪を優しくすくい上げる。
「だけど、君と俺は違う。俺には君がいる。完璧ではない俺の側から離れられない君が。君には誰もいないのに」
ふわりと本当に嬉しそうに笑うウィリアム様に私は複雑な気持ちになった。
ウィリアム様は完璧な自分をずっとずっと追い求め、強要されてきたのだろう。
その中で徐々に自分を見失い、傷ついていた。
そんな時に幼馴染であり、婚約者である大切な存在、レイラ様を失ったのだ。
心の拠り所を一つ失ったウィリアム様にどれほどの悲しみが押し寄せたのか。
けれど、文字通り、ウィリアム様とよく似た存在の私が現れた。
完璧ではない自分を受け入れるしかない初めての存在にウィリアム様は救われたのだろう。
レイラ様の穴を埋めるように現れた私に嫌悪感を持ち、嫌がらせをしていると思っていたが、どうやらそれだけではないようだった。



