逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。






ここで私はふと思い出した。
『君は俺と同じだね』と微笑んでいたウィリアム様のことを。

私とウィリアム様は境遇は違えど、ウィリアム様の言う通り同じだったのだ。
たった今聞いてしまったウィリアム様と公爵様の会話によって、私はウィリアム様が私に言った言葉の意味を何となく理解した。


『周りの期待に応えるしかない。応え続けなければその価値を証明できない。哀れで哀れで不愉快だね』


あれはきっと私と自分に向けての言葉だったのではないだろうか。



「そんなところで突っ立っていないで、中に入っておいで」



公爵様の背中を何となく見つめながら、そんなことを考えていると、ウィリアム様の部屋から柔らかいウィリアム様の声が聞こえてきた。
なので、私は「…失礼します」と言い、おずおずとウィリアム様の部屋へと入った。
部屋に入って、まず目に入ったのは、大きなソファに腰掛けるウィリアム様の姿だった。

あんなことを言われた後だと言うのにウィリアム様はいつも通りで、優しい笑みを浮かべている。
けれど、何故かその笑みに感情を感じることができず、ウィリアム様の美しさもあり、まるでそこに座っているウィリアム様が美しい何の欠点もない完璧な人形のように見えた。