そんなことを考えていると、ウィリアム様の部屋の扉の向こうから、こちらに向かってくる誰かの足音が聞こえてきた。
状況的におそらく、公爵様がこの部屋から出る為にこちらに向かっているのだろう。
ここで立ち聞きをしていたとバレると印象が悪くなる!
私は慌てて身を隠す場所を探した。
だが、しかしウィリアム様の部屋の近くにはそもそも部屋がなく、物もなく、開放的な場所になっていた為、私は身を隠す場所を見つけることができなかった。
ガチャリとドアノブが回され、開かれた扉の先から公爵様が現れる。
そしてそんな公爵様と身を隠せなかった私はバッチリと目が合ってしまった。
「こ、こんにちは。公爵様」
目の合った公爵様に私は慌てて、ついこの前授業で習ったばかりの貴族のご令嬢の挨拶をしてみる。
ドレスを両手で軽く持ち、片足を斜め後ろに引き、両膝を軽く曲げる。カーテシーというものらしい。
突然の実践だったので、授業のようにはいかず、少々ぎこちないものになってしまった。
「…レイラ嬢か。久しいな。私は用事があるので、これで」
こちらを一瞥して、さっさと私から離れる公爵様。
ニセモノの私と会うのはこれが初めてだったが、公爵様も息子であるウィリアム様と同様に私をレイラ・アルトワ様として扱う気のようだ。
まぁ、そうでなければ、今頃レイラ様とウィリアム様の婚約は解消されていただろうし。



