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やっとの思いで屋敷内へと辿り着いた私はこんなことをしてきた元凶にお暇を伝える為に屋敷内の廊下を1人で歩いていた。
ウィリアム様の顔なんて見たくもないし、訳のわからない道を1時間も彷徨っていたので、疲労感もすごく、さっさと帰りたいのが本音だが、そういう訳にもいかないのが現状だ。
ウィリアム様よりもアルトワ家のレイラ様の身分の方が下である以上、礼儀は通さなければならない。
私は疲れた体に鞭打って、ただただウィリアム様がいるであろうウィリアム様の部屋を目指した。
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少し歩いて、やっとウィリアム様の部屋の前まで辿り着いた。
中から人の気配を感じるので、おそらくここにウィリアム様がいるのだろう。
さっさと挨拶をしてお暇しよう。
そう思ってウィリアム様の部屋の扉をノックしようとしたその時、中からわずかに聞こえてきたとある人物の声によって私の手は止まった。
「お前は次期公爵だ。全てが完璧でなければ、お前に存在価値などない」
扉からの向こうから聞こえてきた酷く冷たい声はシャロン公爵家現当主、ジャック・シャロン公爵様のものだ。
血の繋がった我が子に向けるものとは思えないあまりにも冷たすぎる公爵様の声音に私は息を呑んだ。
「それでお前の婚約者、アルトワの娘はどうだ?あの娘はお前が認める完璧な令嬢だったのだろう?代わりの者でも変わらずか?最近我が家でいろいろと問題を起こしているようだが」
「はい。以前と変わらず彼女は優秀ですよ。レイラが我が家で問題を起こすのも我が家に慣れ、リラックスしているからでしょう」
「…ならいいが。だが、決して忘れるな。何もかも完璧でなければ、お前には存在価値などないのだ。婚約者でさえも、完璧な者でなければならない。それがシャロンの名を継ぐということだ」
「はい」
こんなにも冷たい会話が本当に血の繋がった親子の会話なのだろうか。
変わらず公爵様の声音は冷たく、それに応えるウィリアム様の声もどこか感情を感じさせず、無機質だ。



