それから私たちはいつものように他愛のない会話をしながら、園庭内の散策を始めた。
「今日のスタイリングも全部セオドアが?」
「はい、そうです」
「ふふ、相変わらず仲のいい姉弟だね」
「…まぁ、はい。たった1人の弟ですし」
「でも実際に血は繋がっていないよね?」
「…私とはそうですね」
クスクスとどこか楽しそうに笑うウィリアム様に気まずくて曖昧な返事をしてしまう。
ウィリアム様はこうしてたまにレイラ様としてではなく、私を私として扱う時がある。
そしてここにいる私はいつでもレイラ様だったので、その度に私は戸惑った。
苦笑いを浮かべる私と優しい微笑みを浮かべるウィリアム様。
表向きは一応、にこやかな私たちだが、もちろん私の心はにこやかなものではなかった。
ウィリアム様はいつも何かしらの嫌がらせを突然してくる。今日も私に何をしてくるのかわからない。
警戒するに越したことはない。
「レイラ、こっち」
心の奥底でウィリアム様のことをずっと警戒していると、ウィリアム様はそんな私の手を引き、狭い木々の隙間を歩き始めた。
ウィリアム様が進む方向には人1人分のスペースしかなく、複雑に変わる方向によって、自分が今歩いてきた道でさえもよくわからなくなる。
そんな道なき道をウィリアム様と歩き続けること数分。
突然、私たちの目の前に開けた場所が現れた。
「わぁ…!」
その開けた場所のあまりの美しさに、思わずレイラ様としてではなく、私、リリーとして感嘆の声をあげる。
私たちの目の前に広がる開けた場所には、見たことのない色とりどりの花が咲いており、その花の周りには数匹の蝶々がふわふわと舞っていた。
さらにそこに太陽の光が差し込まれ、キラキラと輝くことによって、今は冬だというのに、そこだけはまるで春のような暖かさのある場所になっていた。



