逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。





会うたびに笑顔で私に嫌がらせをするくらい私のことが気に食わないのなら私に会わなければいい、ホンモノのレイラ様が帰ってくるまで待てばいいではないか、と思う。
だが、ウィリアム様は何故かいつも帰り際に次の約束を取り付け、私がウィリアム様から離れることを許さなかった。
そしてウィリアム様は嫌々会いに来る私を見ていつもどこか嬉しそうにしていた。

ああ、私が没落寸前の男爵家の娘ではなかったら。
男爵家の再建の為にレイラ様の代わりをしていなかったら。
絶対にもう会いたくない相手なのに。



「はぁ…」



窓の外に見えてきた伯爵家よりも立派なお屋敷に私は本日何度目かわからない深いため息を吐いた。




*****




今日のウィリアム様との予定はシャロン公爵邸内にあるガラスドームの園庭内を共に散策する、というものだった。



「やぁ、レイラ」



今日も今日とて嫌々ウィリアム様の前に現れた私に、ウィリアム様はとても嬉しそうに柔らかく微笑む。

…本当に意味がわからない。
私のことが嫌いなはずなのにどうしてそんな顔ができるのだろうか。



「こんにちは、ウィリアム様」

「こんにちは、レイラ。今日は散策にうってつけの日だね」

「そうですね」



ウィリアム様がガラス越しの空にほんの少しだけ視線を向けたので、私も同じように空に視線を向ける。

ここは園庭とはいえ、ガラスドームの中なので、外の天気の影響を一切受けない。
外がどんなに寒くてもここだけは暖かいのだ。

しかし温度の影響は受けないが、園庭内の美しさについては違った。
晴れている方が、園庭内に太陽の光が降り注ぎ、この園庭をより一層美しく輝かせるのだ。

今日の天気は晴れだった。
園庭を輝かせる太陽の光が降り注ぐ今日はウィリアム様の言う通り、散策するにはうってつけの日なのだ。