逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。





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「はぁ…」



今日の嫌すぎる予定のことを思い、私からため息が漏れる。
馬車から見える景色をぼーっと見つめながら、私は憂鬱な気分になっていた。

正直もうウィリアム様とは会いたくない。

ウィリアム様と初めて会ったあの日から2週間。
ウィリアム様の婚約者という立場上、会いたくなくても数日に一度はウィリアム様に会いに行かなければならず、今日も私は重い腰を上げ、嫌々ウィリアム様に会いに1人で馬車に乗っていた。

毎回毎回、ウィリアム様と会う時は私の方からウィリアム様の元へと行く。
その度に私は伯爵家であるこちらの方がウィリアム様よりも身分が下なのだと痛いほど感じ、緊張した。

そしてその伯爵家よりも身分が上であるウィリアム様はあの日以来、私と会うたびに私に様々な嫌がらせをしてきた。

あの日のように頭から紅茶をかけられた回数3回、噴水に突き落とされた回数2回。
ある時は「君が気に入っている本を知りたい」とか言われたので、適当に選んだ本を持って行けば、それを私の目の前で一枚ずつビリビリに破られた。

そんなことを毎度毎度繰り返されては会いたくもなくなる。さらにはどんなことをされても伯爵家の為、レイラ様の為に私は怒れないのだ。
脳内で何度、ウィリアム様に悪態をつき、その美しい王子様フェイスを殴ってきたことか。

しかも嫌がらせをしてきた後、ウィリアム様は決まっていつも私のことを心配してきた。
紅茶や噴水の水でびしょ濡れの私に「大丈夫?」と心底心配そうな顔で手を伸ばし、本を破られて固まる私に「辛いよね」と労うような顔で私の頬を撫でられた時は本当に意味がわからなかった。

ウィリアム様はきっとサイコパスなのだと私はいつも思っていた。