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初めてウィリアム様とお茶会をした夜。
私はいつものようにレイラ様の部屋で、授業の予習と復習をしていた。
もちろん私の隣には今日もピッタリと椅子をくっつけて座っているセオドアもいる。
セオドアの手には何やら難しそうな本があり、セオドアは勉強をする私の横でその本を読んでいるようだった。



「今日、シャロン公爵邸で水浴びをしてきたって聞いたんだけど。犬でもないのに何しているんだよ?姉さんはそんなことしない。姉さんの代わりをするならちゃんとしろ」



読んでいた本を突然パタンっと閉めて、こちらを睨むセオドアに不満しかない。
セオドアの言い方では私が好きで噴水に入ったようではないか。



「…好きでそうなったんじゃない」

「そんなのどうでもいい。水浴びをしたのは事実だろ?お前の不注意で」

「…まあ、そうだけど」



私の不注意ではない。ウィリアム様の悪意100での出来事だ。
けれどそれをセオドアに言ったところで、現状は変わらないので、本当のことを言おうとは思わなかった。
セオドアは自身の姉さんであるレイラ様の味方であって、レイラ様のニセモノである私の味方ではないのだ。

不満そうな私を見てセオドアは「何?」と冷たい視線を私に向けてきた。



「…ウィリアム様ってサイコパスだったりする?」



冷たい視線を私に送り続けるセオドアに何となく〝ウィリア様〟について聞いてみる。

レイラ様とウィリアム様が幼馴染なら、きっとセオドアも同じようにウィリアム様と幼馴染であり、私よりもずっとウィリアム様について知っているはずだ。

私の質問にセオドアは「は?」と怪訝な顔をした。



「姉さんの婚約者であるウィリアム様がサイコパスなわけないだろ?完璧な姉さんの婚約者なんだから、当然ウィリアム様も完璧なお方だ。そうでなければ、姉さんとの婚約を許していない」

「いや、けどそんな完璧な人にも裏があるとかさ?」

「ない。あのお方は完璧なお方だ」

「でもほら、実は使用人をいじめていた、とか、どこかの娘さんを泣かせた、とかそういう噂の一つくらいは…」

「ない」



私がどんなにウィリアム様の裏を探ろうとしても、セオドアはキッパリと首を横に振る。