逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。





ウィリアム様は肩書きだけではなく、王子様のような美しい見た目と、何をやらせても完璧な器量、さらには性格の良さからこの国の誰もが婚約したいと願うお方だ。
そんなお方があんな酷い言葉を私に吐き、さらには紅茶を頭からかけてくるだなんて。



「こんなことを俺にされてもお前は怒れないし、媚びるしかないんだよね。全ては没落寸前の男爵家の為に」



おかしそうに笑うウィリアム様を見て、私はわかってしまった。
ウィリアム様がアルトワ伯爵家のニセモノのレイラ様の事情以外にも、私、リリーのことまでもいろいろと知っているということを。
そしてウィリアム様は全て知った上で、絶対に逆らえない私の様子を見て楽しんでいるのだ。
性格が悪いにもほどがある。性格が良いなんて真っ赤な嘘ではないか。

とても腹立たしいが、ウィリアム様の言う通り、私はウィリアム様の顔色を伺い、常に期待に応えられなければ、価値のない存在なので、ウィリアム様へのこの怒りも直接本人にぶつけることはできなかった。

なので私は代わりに目一杯ウィリアム様のことを睨んだ。


その後、ウィリアム様の証言によって、私は何故か園庭の大きな噴水に一人で落ちたことになっていた。

そんな私に対して公爵邸のメイドたちはウィリアム様の命令によってだが、至れり尽くせりで私の世話を焼いてくれた。
お風呂に入れたり、着替えを手伝ったり、空き時間にはマッサージやエステをしてくれたり。数え出したらキリのない贅沢を一通り受けた後、私は公爵邸を後にした。

至れり尽くせりの最中に、時々ウィリアム様が私の様子を見に現れては、「大丈夫?」や「災難だったね」と声をかけてきた時は、サイコパスでは?と思ってしまった。

何なんだ、あの男は。