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それから私たちは本当に他愛のない話をした。
天気の話やちょっとした流行りの話、いろいろな話をしていく中で私はこの優しいウィリアム様の気分を害さないようにずっとウィリアム様の顔色を伺っていた。
「それでレイラはこのことについてどう思う?」
「え、あ、えっと。ウィリアム様のお考えが正しいかと…」
「ふーん。それはレイラらしくない答えだね。レイラなら例え俺の意見であっても間違っていれば間違っていると言うはずなのに」
「…今はたまたまウィリアム様と意見が合っただけです」
「そう」
胃が痛い。
微笑んでいるのだが、何だか私を試すような目で見てくるウィリアム様の視線が痛すぎて、美味しそうなケーキが全く喉を通らない。
例え胃に入れたとしても胃が痛くて気持ち悪くてもう最悪だ。
ウィリアム様からのプレッシャーに限界を感じていると、ウィリアム様はその形の良い唇をゆっくりと動かした。
「君は俺と同じだね」
「…え」
目の前のテーブルにある紅茶に口を付けて、ふわりと笑うウィリアム様の言葉の意味がわからず、思わず声を漏らす。
ウィリアム様と私が同じ?
没落寸前のフローレス男爵家の娘と、この国の三大貴族、シャロン公爵家の長男では何もかも違うと思うのだが。
「周りの期待に応えるしかない。応え続けなければその価値を証明できない。哀れで哀れで不愉快だね」
ウィリアム様は優しい顔のままそれだけ言うと、その場から立ち、たった今優雅に飲んでいた紅茶を私に頭からかけた。
ーーーーえ?
今、何が起きたの?
たった今自分の身に起きた出来事が理解できず固まってしまう。
頭から流れ落ちる暖かい水は今まさにウィリアム様が飲んでいた紅茶で、その紅茶のせいで私は今、全身びしょ濡れだ。
この不快感の原因は今私の目の前で微笑んでいるこの男の仕業なのだ。
え?嘘でしょ?
状況を理解しても、私はこの状況をなかなか飲み込むことができなかった。



