彼こそがこの国の誰もが婚約したいと願うお方、ウィリアム・シャロン様だ。
そんなウィリアム様と目が合う。
するとウィリアム様はその黄金の瞳を細めて、私に柔らかく微笑んだ。
「レイラ、久しぶりだね」
ふわりと何の問題もないように微笑むウィリアム様。
特に今の状況に疑問を持つことなく、明らかにレイラ様ではない私をレイラ様として扱ったウィリアム様の姿に、アルトワ夫妻の姿が重なる。
私はそんなウィリアム様にアルトワ夫妻と同じように少しだけ怖いと思ってしまった。
「お久しぶりです、ウィリアム様」
しかし私は今、ニセモノだがレイラ様だ。
なので私は怖いという思いを胸の奥にしまい、レイラ様としてウィリアム様に応えた。
そしてそんな私にウィリアム様は「少し雰囲気が変わったね、レイラ。どうぞここへ座って」とテーブルを挟んで向かい側にある席に座るように促した。
ゆっくりとウィリアム様に言われた席に座り、ウィリアム様にはバレないように小さく息を吐く。
この穏やかな王子様のような人はレイラ様の…いや、アルトワ伯爵家にとってとても大切なお方だ。
この方に私が何か粗相をするわけにはいかない。
気を引き締めなくては。
「半年前の事故で記憶を失っていると聞いたよ。俺のことも覚えていないのかな?悲しいな」
私の目の前で悲しそうにウィリアム様が笑う。
ウィリアム様はどうやらアルトワ夫妻が私に与えている役割をそのまま受け入れているようだ。
赤の他人が幼馴染の婚約者に成り代わっているというのに、それを当然のように受け入れている様子のウィリアム様にますます怖くなる。
まだセオドアの最初のリアクションの方が理解できたし、受け入れられたのに。



