逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。




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アルトワ伯爵邸を初めて見た時、ただの貴族のお屋敷ではなく、お姫様や王子様が住んでいそうなとても豪華ですごいお城だと思った。
だが、上には上がいるようで、今日初めて見たシャロン公爵邸はそのアルトワ伯爵邸よりもさらにすごいものだった。

没落寸前の男爵家の娘であり、ほぼ平民の目の肥えてない私でさえも、シャロン公爵邸の洗練された美しさや素晴らしさがわかる。
そんなシャロン公爵邸の素晴らしさに圧倒されながらも、私は今、ガラスドームに囲まれた公爵邸内の園庭を歩き、シャロン公爵邸のすごさをまた肌で感じていた。


『お前は姉さんじゃないけど、姉さんの席、姉さんの名誉、姉さんの全てを守る義務がある』



シャロン公爵邸の美しすぎる園庭を男性の使用人に案内されながら、ふとセオドアに散々言われた言葉を思い出す。
そして私は改めて気を引き締めた。

私はレイラ様なのだ。
私が失敗すれば、レイラ様の名に、アルトワの名に傷がつく。
そうなれば、私や男爵家の立場が当然危うくなる。
そうならない為にもきちんとしなければ。



「ウィリアム様、レイラ様をお連れ致しました」



私の前を歩いていた使用人が、園庭内の開けた場所に着いたと同時にそこにいる人物に声をかける。



「ああ、案内ご苦労」



花に囲まれた場所に用意されているティーセット。
そこに1人で腰掛け、微笑む人物はまさに絵画から出てきた王子様のような人だった。

セオドアよりも少し長い柔らかそうな銀髪は光の加減によっては白銀にも見えて美しく、こちらを見つめる金色の瞳もまるで黄金のような輝きを放っている。
目鼻立ちがはっきりとしており、人形のような完璧な顔立ちに宝石のような色合いを持つ彼はセオドアとはまた違った美しさを持っていた。