逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。





今私が着ているドレスはつい先ほどメイドに薦めてもらい、着替えたばかりの淡い水色のドレスだ。
シンプルながらも所々にあしらわれているレースがとても上品で、華のあるデザインのドレスなのだが、セオドアが持っているドレスは少し毛色が違った。

シンプルな部分は同じなのだが、あのドレスはシンプルを通り越して地味な印象のものなのだ。
洗練された美しさがあると言えばそうなのだが、やはり地味であるという印象の方が勝つ。
ホンモノのレイラ様が着れば、美しさの相乗効果で素晴らしいものになりそうだが、実際に着るのは私なのでおそらくあまりいい結果は得られない気がした。
それこそ見窄らしくなるのではないか。

そもそも私が今着ているドレスの方が肖像画のレイラ様が着ているドレスと系統がよく似ていた。
つまり私が今着ているドレスこそがレイラ様らしいものなのだ。
それなのに印象の少し違うもの、しかも必ず私が見窄らしくなって恥をかきそうなものを選ぶとは。

ここ1ヶ月、セオドアからの嫌味は相変わらずだったが、嫌がらせはめっきりなくなっていた。
けれど、こういった方面でセオドアは私に嫌がらせを続ける気のようだ。

そしてここ1ヶ月で大きく変わったことはまだある。
それは私とセオドアの関係だ。
レイラ様の部屋でセオドアと本音で言い合って以来、セオドアは私がレイラ様の代わりであること許した。

それからレイラ様の代わりを務めるのなら、レイラ様として自分に関わるようにと言い、急にセオドアのことを呼び捨てに、喋り方も砕けた口調にするようにと言ってきたのだ。
最初こそ、違和感しかなく、戸惑ったが、1ヶ月もセオドアにそうするように何度も何度も言われ続ければ、さすがに慣れた。



「…何でセオドアがここにいるの」



突然この部屋にやって来て、おかしなことを言うセオドアを文字通りおかしなものでも見る目ような目で見つめる。
するとセオドアはそんな私を私と同じような目で見た。



「弟なんだから姉さんの身支度に口を出すのは当然だろ?髪飾りはこれにして」

「…」



いつの間にか白いドレスをメイドに渡していたセオドアが今度はパールの髪飾りをこちらに突き出す。
それを受け取らず、何も言えないままじっと見つめていると、私の横にいたメイドが「かしこまりました」と受け取っていた。