「姉さんはそんな間違いしない。しっかりしろよ。そんな初歩的な間違いをして笑われるのはお前とお前が成り代わっている姉さんなんだから」
「…はいはい」
僕に嫌味を言われて姉さんのニセモノが苦笑いを浮かべて適当な返事をする。
文句を言い合ったあの日以来、僕たちの間に上下関係はなくなり、こんなふうにコイツは僕に砕けた口調と態度を取るようになっていた。
僕がそうするように何度も何度も言ったからだ。
姉さんの代わりになるのなら姉さんが現れるまでは姉さんとして僕に接するべきだ、と。
最初は戸惑っていたコイツも次第に慣れ、今ではこんな感じだった。
「…それよりもさ、セオドア」
「何」
「近くない?私たち」
僕の横で言いにくそうにそう言い、僕を見つめるアイツに僕は冷たい視線を落とす。
確かに僕たちの距離は一般的には近いだろう。
ニセモノの横にぴったりとくっつくようにわざわざ椅子を置いているのだ。近くて当然だ。
しかしニセモノがホンモノに成り代わらない為にも僕は物理的にも近くでコイツを見張る必要がある。
少しでも近くでコイツを見て、少しの変化も逃さないようにしなければならない。
「貴族の姉弟の距離感はこんなものだよ。没落寸前の男爵令嬢じゃ知らないだろうけど」
真っ赤な嘘であるが、それらしく言えば、コイツは「…そ、そうなんだ」と呟いて、またノートとテキストに視線を向けた。
何と騙されやすい単純なやつなのだろう。
こんな距離感、貴族の姉弟でもおかしいに決まっているじゃないか。
確かに姉さんと僕は仲が良かったが、こんな距離で一緒にいることなんてなかった。



