「レイラのことは別に何とも思っていなかったよ。好きでも嫌いでもない。利害関係が一致していただけの仲だ。俺が愛しているのは昔からずっと君だけだから。結婚するんだし、ついて行くよ。このハネムーンが終わったら公爵邸においで。結婚しよう」
「はぁ?」
セオドアのことでさえもまだよく飲み込めていないのに、甘く微笑むウィリアム様のせいで、さらに飲み込まなければならない情報が増えてしまう。
ウィリアム様が私を昔から愛していたなんて本当なのか?そもそもプロポーズを断ったはずなのにどうしてもう結婚する気満々なんだ。
何故、自由になる為にここから逃げるのに、それがいっときの新婚旅行に変換されているんだ。
どうなっているんだ、コイツらは!
「嘘!嘘よ!ウィルは私の完璧な婚約者だし、セオは私から離れられない可愛い弟なの!それなのにどうして2人が!そんな、そんな!」
信じられない気持ちでいたのは私だけではなかったようで。レイラ様も訳がわからない様子で辛そうにその場で喚いている。
何故か私と結婚する気満々のウィリアム様とセオドアに馬車の入り口で喚くレイラ様。
もう目に見える情報全てがカオスである。
喚くレイラ様なんてお構いなしに、ウィリアム様が「じゃあ行こうか」と馬車の扉を閉めた。
ウィリアム様の向こうに見える馬車の窓から泣き崩れるレイラ様の姿とそんなレイラ様を気に掛けながらもこちらに手を振るアルトワ夫妻の姿が見える。
ほんのつい先ほどまではここでの生活に思いを馳せ、しんみりしたり、これからの自由に胸を躍らせていたのだが、今はそれが何もない。
ただただ驚きと不安しかない。
これから一体どうなってしまうのか。
私が望んだ自由がこの先に本当にあるのか?
そもそもこの2人のどちらかと結婚することはもう決定事項なのか?
「セオドア、君はリリーと結婚したいみたいだけど、正式にリリーと婚約をしているのは俺だから残念だけど君は彼女とは結婚できないよ」
「ですが、アルトワはシャロンとの繋がりよりも、リリーを手放さないことに重きを置いています。その為にも、残念ですが、アルトワはウィリアム様とリリーの婚約を白紙にするでしょう。僕とリリーが結婚するのが一番なんです。アルトワにとってもね」
「そうかな?そもそもそれは倫理観としてどうなの?」
「問題ありません。僕とリリーは血は繋がっていませんから」
不安に思っている私なんてお構いなしにウィリアム様とセオドアが変な口論をしている。
それも本人の了承もなしに私の結婚について。
2人の様子を見て私はますます不安になり、今後について憂いた。
どうなってしまうんだ、私は。
【逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。】end.



