「…ありがとう」
私はウィリアム様とセオドアに聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で感謝を口にした。
あとは私が座り、馬車が発進するだけ。
これで本当にアルトワとはお別れだ。
しみじみとそんなことを思っていると、何故かウィリアム様とセオドアが当然のようにこの馬車に乗ってきた。
そしてウィリアム様が私の隣、セオドアが私の前へと座る。
「え」
これから遠く離れた別荘ではなく、いつものように学院へと行く雰囲気の2人に私はぽかーんと口を開いた。
え、何しているの?
「え、あの、2人して何しているの?見送りならここまでで結構ですけど…」
まさか別荘まで見送りに来るつもりか、と2人を変なものでも見るような目で見る。
するとセオドアが私を私と全く同じ目で見た。
「は?見送り?違うけど。お前が行く先に僕が行かないわけないだろ?何で僕に何も言わずに行こうとしたんだよ。僕たちは一緒にいなければならないのに」
「は?」
責めるように私を見るセオドアの言動の意味がわからず、私は口をぱくぱくする。
何故、何故、何故?
答えを求めて彷徨う私の視線に、今度は甘い笑みを浮かべたウィリアム様が入ってきた。
「俺は君の婚約者だしね。一緒に行くのは当然だよ。ハネムーンを楽しもう、リリー」
「はぁ?」
訳のわからないことを言うウィリアム様に思わず、眉間にしわを寄せる。
全く何もかも意味がわからない。
そしてこの訳のわからない状況に困惑しているのは、私だけではなかった。
「セオ!?ウィル!?」
玄関ホールから驚いたようにそう叫び、こちらに駆け寄るレイラ様の姿が見える。
どうやらレイラ様も私と同じように何も知らなかったようだ。



