ニセモノの最後でも見にきたのか?
疑問に思いながらも使用人たちの間を歩くが、悪意や怒りの視線は感じない。
どの使用人も厳かな雰囲気で私を見守っていた。
「リリー!」
使用人たちの間からついに玄関の扉までやって来た私を奥方様が優しい笑顔で迎え入れる。
奥方様の横には当然、伯爵様もおり、さらにセオドアとレイラ様、ウィリアム様までいた。
アルトワ一家の皆様が私のことを見送りに来るのはわかるのだが、何故、何の関係もないウィリアム様までこの場にいるのだろうか。
「リリー。これからも君は私たちの愛する娘だ。落ち着いたら連絡するんだよ」
「たまにはこちらにも帰って来てね、リリー。もちろん私たちもアナタに会いに行くわ。どうかお元気で」
思っていた状況とは違い、戸惑っている私に伯爵様と奥方様が寂しげにだが、優しく笑う。
まるで本当の我が子を送り出す親のように。
「リリー。短い間だったけどアナタと過ごせて本当によかったわ。本当の姉妹のように一緒に過ごせた日々、忘れないわ。かけがえのない時間をありがとう。あちらでもお元気で」
アルトワ夫妻からの言葉が終わると、今度はレイラ様が私の前に現れた。
女神様のように美しく、慈悲深い微笑みを浮かべるレイラ様に、私は本当にウィリアム様とお似合いだなと思う。
見た目の完璧さもさることながら、性格の悪さも同じで、こんなにも合う2人はいないだろうと確信する。
やはり貴族社会を生き抜くには2人のような性格の悪さも必要なのだろう。
そうしてやっと完璧な存在へとなれるのだ。
私ではそこまでの境地には至れなかった。



