「…見ていました?」
「…?何を?」
改めてウィリアム様をじっと見つめ、ウィリアム様が今の私たちのやり取りを見ていたのか、確認してみると、ウィリアム様はどこかおかしそうに首を傾げた。
見ていたことを隠す気さえもないウィリアム様の態度に思わず、苦笑してしまう。
ウィリアム様らしいといえば、ウィリアム様らしいのだが。
「俺を頼ってもいいんだよ、レイラ。俺に助けを求めたっていい。俺はレイラに求められれば喜んで力になるよ」
そんなことを思っていると、ウィリアム様が甘い声音でそう言い、私の右手を取った。
そしてゆっくりと私の手の甲に唇を落とした。
「…ねぇ、プロポーズの返事は?」
ウィリアム様の黄金の瞳が焦がれるように私を見つめる。
何故、レイラ様が大切なウィリアム様が私にこんな視線を向けるのかわからない。
だが、私はどの道、今後はリリー・アルトワとして自由に生きていく。
フローレス男爵家の近くにあるアルトワの別荘で、こんなお堅く、周りの目ばかり気にする貴族の世界とは関わらず、レイラ様が大切な彼らから離れて、穏やかに暮らすのだ。
そんな私の新たな生活にウィリアム様という存在は不要だった。
「…ウィリアム様とのご結婚、とてもいいお話なのですが、私にはもったいなさすぎるお話で…。完璧なアナタにはもっと相応しいお方がいます。それこそホンモノのレイラ様とか」
こちらを見つめるウィリアム様に私はしおらしく笑う。
あくまで私がダメなのだと伝えるのだ。
完璧ではない私ではウィリアム様のお相手など到底務まらない、と。
ウィリアム様は私の答えを聞き、にこやかながらもどこか仄暗く微笑んだ。
「俺と結婚して君が公爵夫人になれば何もかも安泰なんだよ?手に入れられないものなんてないし、平穏だって手に入る。権力もお金も何もかも全てが君の思うがままだ。それを簡単に手に入れられるこのチャンスを君は逃すの?」
「はい、私にはそんなもの必要ありませんから」
確かにウィリアム様と結婚すれば、得られるものがたくさんあるだうろ。
このプロポーズを断ることは惜しいことだって十分わかっているし、そう思う私もいる。
だが、それでも私が本当に欲しい自由がそこにはないような気がした。
だから私はウィリアム様のプロポーズを断った。
「…そう」
私の迷いのない答えを聞き、ウィリアム様は静かに頷いた。
その輝く黄金の瞳がいつもとは違い、どこか暗い気もしたが、きっと私の見間違いだろう。



