「…これで満足ですか」
「…っ」
頬を思いっきり叩かれても何も変わらない私を見て、イザベラ様が悔しそうに震える。
それから俯いたまま、何も言わなくなった。
きっと私の反応が薄すぎて、悔しくて悔しくて仕方ないのだろう。
イザベラ様は少しでも私を傷つけたいのだ。
イザベラ様から見て、諸悪の根源である私を。
「…あ、明日こそは、私の親友を絶対に返しなさい」
やっと口を開いたイザベラ様はそれだけ言い捨てると、「…行くわよ」と、友人のご令嬢たちを引き連れて、その場を後にした。
とりあえずイザベラ様たちからの嫌味に堪える時間ももう終わったようだ。
「レイラ」
そんなことを思っていると、後ろから誰かが私に声をかけてきた。
いや、誰かではない。
この声は…。
「…ウィリアム様」
振り向くとそこには私の予想通り、大変美しい表向きは完璧な王子様、ウィリアム様が立っていた。
あまりにも見計らったようなタイミングで現れたウィリアム様に、私は少しだけ不信感を抱く。
イザベラ様たちとのやり取りをウィリアム様は見ていたのでは?
そしてあえて私を助けずに今出てきたのでは?
もしそうならやはりウィリアム様は表向きだけ完璧なサイコパスだ。
わかっていたけれど。
「ああ、レイラ」
ウィリアム様に怪訝な視線を向けていると、ウィリアム様はそんな私なんて気にも留めずに、心配そうに私の元へとやってきた。
「君の愛らしい頬が赤くなっているね」
ウィリアム様が私の頬を辛そうに見て、労るように優しく撫でる。
それから制服のポケットから小さな蓋付きの容器を取り出すと、「これ、薬だよ」と、私の頬に容器の中のクリーム状の薬を塗った。
ウィリアム様に薬を塗られたことによって、痛みがすっと引いていくのがわかる。



