逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。




*****



変わらず私の周りは悪意で満ちている。
だが、私はもう耐えられた。ここから離れられることが決まっているからだ。

もちろんこんな私を助けようとする者など現れなかった。
当然だろう。レイラ様から全てを奪うニセモノを一体誰が助けたいと思うのだろうか。

今日学院で受けた嫌がらせは、机に入れておいた教科書を全て水浸しにされる、というものだった。
なので私はその教科書たちを抱えて、学院内の綺麗に整えられた芝生が生い茂る広場へと向かった。
そしてそれらを一冊ずつ芝生の上へと並べた。

時刻は午後2時。昼下がりの太陽の光が降り注ぐここは教科書を乾かすにはうってつけの場所だ。
ここでなら1時間もすれば、教科書も少しは乾き、鞄に入れ、持ち帰れるくらいにはなるだろう。



「はぁー」



私は教科書を並び終えると大きく息を吐いて、芝生の上に仰向けになった。

私の瞳と同じ色の空には複数のいろいろな形の白い雲が浮かんでおり、見ていて飽きない。

ふわふわのうさぎに、ふわふわの花。
ふわふわの大きな家に見える雲もある。

この穏やかな時間に私は懐かしさを感じた。

かつて没落寸前の男爵家の娘だった私は、よくこうして庭に寝そべり、空を見ていた。
あの時の感覚が今も鮮明に思い出せる。

もう授業が始まる時間だったが、そんなことどうでもよかった。
完璧ではないリリーは今ここで教科書と共にあの時のように寝たかった。