*****
次に目を覚ました時、私は死んでいなかった。
見覚えのある天井に自分が今、レイラ様の部屋にいるのだと把握する。
何となく体を起こす前に誰かの気配を感じたので、横を見てみれば、そこには椅子に座り、ベッドにうつ伏せになって寝ているセオドア様の姿があった。
何故、ここにセオドア様が?
疑問に思いながらも体をゆっくりと起こす。
すごく重たい感じはするが、それ以外に特に目立った異常は感じられない。
毒を飲んだ割には至って正常だ。
今までの毒の中でも強力なものだと思っていたのだが、そうではなかったのかもしれない。
「…ん」
私が起きた気配を感じたのか、セオドア様も目を覚まし、体を起こした。
それから至って普通な私と目が合うとほっとした表情を浮かべた。
え?
セオドア様の表情の意味がわからず固まる。
何でそんな表情を浮かべるのか。
まるで私が大丈夫そうだから安心しているみたいではないか。
だが、そんなセオドア様の表情はすぐにいつもの冷たいものへと変わった。
…あのほっとした表情は見間違いだったようだ。
「「…」」
私とセオドア様の間に気まずい沈黙が流れる。
どちらも何も言わず、ただ互いに目を合わさない。
セオドア様が一体何をしたくてここにいるのかわからず、私はつい聞いてしまった。
「私の死ぬ様を見届けていたのですか?」
そうとしか思えず、セオドア様をまっすぐと見つめる。
するとセオドア様はその美しい顔を思いっきり歪めた。
「違う!そもそも誰がお前に解毒薬を…」
そこまで言ってセオドア様はハッとした表情になり、口を閉じた。
セオドア様が私に解毒薬を飲ませたのか?
あのセオドア様が?
さすがに私を殺すとアルトワ夫妻に怒られるから生かしたのか?
「…お前の紅茶を用意した者は拘束済みだ。もちろんこのことはお父様にも報告している。紅茶を用意した者は解雇され、罪を問われるのも時間の問題だろう」
全く状況を理解できていない私にセオドア様が冷たい表情のまま淡々と状況を説明する。
そしてそれだけ言うと、セオドア様はさっさとベッドから離れてこの部屋から出て行った。
セオドア様の嫌がらせもここまでエスカレートするとは。
セオドア様に命令されて紅茶に毒を盛った者に私は同情した。



