元々セオドアのこともあり、もしかすると、レイラ様と入れ替わった後も、アルトワのままなのかもしれないとはわずかに思っていた。
リリー・フローレスはここへ来たあの日、死んだ。
ここへ来ることを選んだあの日から私にはフローレスへと帰る選択肢はなかった。
だが、レイラ様が帰ってきた。
レイラ様がいるのなら、私はここには必要ない、帰ってもいい、そうずっと思っていた。
ただその選択肢が今、なくなった。
辛くないといえば、嘘になるが、6年前ほどの衝撃はない。
それどころか今後リリーとして生き、本当のお父様とお母様にも会えるのなら全然有り難い話だ。
さらにはここから出る許可も降りた。
私はここから解放され、リリーとして自由に生きられる。
「リリー。君の新しい生活の支援ももちろんさせてくれ。新しい住処にフローレスの近くの別荘なんてどうだろう?生活費ももちろんこちらが払うよ」
「え、いいんですか?」
伯爵様からの有り難すぎる提案に目を見開くと、伯爵様の隣で奥方様がその星空のような瞳を細めて優しく笑った。
「何を言っているの?アナタは私たちの娘なのよ?当然よ」
「…ありがとうございます」
本当に2人には感謝してもしきれない。
私は精一杯の感謝の気持ちをそのたった一言に目一杯込めた。
本当の娘ではない私を本当に愛してくれてありがとう。



