逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。





どのくらい伯爵様の次の言葉を待ち続けたのだろうか。
そう思うくらいには伯爵様の次の言葉を待ち続け、伯爵様はやっと重い口を開いた。



「…君がここから出て行くことを許可しよう」

「…っ。ありがとうございます」



伯爵様からの許可に嬉しくなり、思わず破顔しそうになるが、まだその時ではないと思い、顔に力を込める。
するとそんな私に神妙な面持ちで伯爵様は話を続けた。



「ただどうかこれだけは許して欲しい。君を今後も私たちの娘として扱うことを。私たちは君をどうしても手放せない」



そう、こちらに訴えかける伯爵様の瞳には、伯爵様の切実な思いが詰まっており、真剣さが痛いほど伝わってくる。



「君に君の名、リリーという名も返そう。君は今後、レイラではなく、リリーとして生き、私たちの許可などなくとも、ご両親に自由に会いに行ってもいい。だが、それはフローレスのリリーとしてではなく、アルトワのリリーとしてだ。そこだけは譲れない」

「…わかりました」



私はあまりにも切実に真剣にこちらをまっすぐに見る伯爵様にゆっくりと頷いた。