今日という息苦しい1日を終えた私は今の状況をアルトワ夫妻に伝える為に、談話室へと向かった。
夕食後には決まって2人はあそこで仲良くくつろいでいるからだ。
「お父様、お母様、今ちょっといい?」
談話室の扉を開けると、そこにはやはり予想通り、仲良く同じソファに座り、くつろぐ夫妻の姿があった。
なので、私はそんな夫妻の元へ迷わず歩み寄り、声をかけた。
すると2人は優しく私に微笑んだ。
「どうしたの?レイラ?」
「何だい?」
奥方様も伯爵様もニセモノであるとわかっていながらも、私にとても優しい。
この2人が始めたことなので当然そうなのだろうが、それでも6年前から変わらず私の味方でいてくれたのは、彼らだけだった。
その為、私をレイラ様として本気で扱う2人の姿に怖いと思う瞬間こそよくあったが、それでも2人のことを私は嫌いにはなれず、むしろ好感さえ抱いていた。
この6年の間だけは、紛れもなくあの2人が、私のもう1人のお父様とお母様だった。
「話が…いえ、お話があります」
最初はレイラ様として話をしようと思っていたのだが、今後のことも考え、私はあえてリリーとして2人のことを真剣な眼差しで見る。
そんな私の姿を見て、何かを感じ取ったのか、アルトワ夫妻から笑顔が消えた。
伯爵様が私の様子を窺うように、奥方様が私を心配そうに見つめ、私の次の言葉を待つ。
「今、現在、学院の生徒とアルトワの使用人の間で、私がレイラ様ではないという話が急速に広まっております。段階を踏んで入れ替わる予定でしたので、この状況下でも、私はレイラ様のフリを続けておりましたが、それももう限界です。ですから、少し早まってはしまいますが、今私とレイラ様を入れ替えるべきです」
「…っ」
「…」
私の話を聞き、奥方様は驚いたように目を見開いたが、伯爵様は冷静な表情のままで。
今の状況をわかっていたのか、いなかったのかわからないが、伯爵様はきっと努めてそうしているのだろう。



