逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。





2人が直接私を助けることはない。
だが、こうして私から離れることもないようだ。
イザベラ様と対峙する2人を見て、私はそう思った。

全く本当に意味のわからない2人だ。
彼らの大切な愛するレイラ様の居場所を奪い続ける私に、彼らが学院の生徒たちのように態度を変えないのは、やはりもうこの6年でそんな私に慣れてしまったからなのだろうか。

ウィリアム様とセオドアの様子を見て、イザベラ様は「大変失礼いたしました」と悔しそうに頭を下げ、そのままこちらを睨みつけると、そそくさとその場から立ち去った。
きっとイザベラ様はウィリアム様とセオドアを私から離し、私を孤立させたかったのだろう。
だが、どうやらそれは失敗に終わったようだ。

離れていくイザベラ様たちの背中を何となく見つめていると、突然、ウィリアム様が私に優しく微笑んできた。



「どうして欲しい?レイラ」



6年前からよく見てきたこちらを試すように見つめる意地の悪い黄金の瞳にため息が出そうになる。

ウィリアム様のことを優しい王子様だと思っている全てのご令嬢たちに、目を覚ませ、と言ってやりたくなる。
嫌がらせを受けている人にこんな視線を向け、あんなことを言うとは、ウィリアム様は本当に性格が悪すぎる。
サイコパスだ。



「助けてやってもいいよ」



ウィリアム様の全てに嫌気が差していると、今度はセオドアが冷たくそう言って私を見た。

セオドアにしては珍しく私に優しくて、自分の耳を疑う。

『姉さんはもっとしっかりしている。情けない姿を人様に見せるな』と、言ってきそうなものなのに、一体どうしたのか。
頭でも打ったのか。



「いいよ、別に。みんなが怒るのは当然だからね」



おかしな2人に私はそう言って笑うと、また廊下を歩き出した。

怒りの感情はきっとずっとは続かない。
今のように何もせず、ただただ受け止め続ければ、いつか少しずつその怒りは収まり、嫌がらせもなくなることはなくても、落ち着きはするだろう。
かつてのセオドアのように。

だから私はその日が来るまで全てを甘んじて受け入れる。
それがレイラ様のニセモノである私の最後の役割だ。