逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。






正直、「はい、私はニセモノでした。ホンモノのレイラ様にここを返します」とすぐにでもイザベラ様に言ってあげたい。
だが、アルトワの方針としては、混乱を招かないように、学院にレイラ様として通い続けるのは、残念ながら私なのだ。
まだ噂がどこまで広がり、どこまで信じられているのかわからない以上、迂闊に種明かしをする訳にはいかない。
アルトワの方針に逆らう訳にはいかないのだ。



「…そう。ごめんなさい。私、6年前の記憶が事故のせいで曖昧なの。大切な親友を失ってイザベラ様はさぞ悲しい思いをしたのでしょうね」



なので私はここはしらを切ることにした。
本当に哀れそうに瞳を細めて、イザベラ様を見つめる私にイザベラ様は目を吊り上げる。



「アナタがその気ならこちらにも考えがあるわ!」



それだけ叫ぶとイザベラ様は「行くわよ!」と友人のご令嬢に声をかけ、この場から離れていった。

災難だったがきっとこれは災難の始まりなのだろう。
ただでさえ、アルトワも居心地が悪いのに、ここも居心地が悪くなるのかと思うと気が重たくなった。