逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。





そう思っていたのに。
現実はそんなに甘くなかった。

使用人たちの冷たい態度は日に日に悪化していき、ついにはアルトワ夫妻やセオドアにはバレない程度の小さな嫌がらせが始まってしまったのだ。

まずは私を担当する使用人たちが全く仕事をしなくなった。
部屋の掃除もしなければ、私の身支度の手伝いもしない。私の部屋に一切現れなくなったのだ。

それどころか、私のいない間にクローゼット部屋に入り、よくいろいろなものをどこかへ運んでいた。
何故、私がいない時のことを私が知っているのかというと、使用人たちが私に隠れてこっそりそのことを話していたからだ。

『ニセモノのところにあるドレスやアクセサリーは本来ならあのお方のもの。少しずつでも取り返しておかないと』

そう話している使用人たちの声を聞いた時、私はそうだろうね、とただただ納得して頷いた。
別にレイラ様のものを奪ってやろうなどと思っていないので、そう思うのなら直接言って、そのまま持って行けばいいのに、と思うのだが、そういうわけにもいかないのが現状なのだろう。

どんなにレイラ様の席を奪い続ける私が憎くても、今現在はその私がレイラ様なので、誰も面と向かって逆らうことができなかった。
そんなことをアルトワが許すはずがないからだ。