逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。





…それは違うと思います。

レイラ様があまりにも私を買い被りすぎており、思わず苦笑いを浮かべそうになるが、何とか真剣な表情を作る。
百歩譲って努力を評価してもらえたことは大変恐れ多くも有り難いし、頷けるのだが、ウィリアム様とセオドアが私がいたから寂しくなった、というのは大きな間違いだ。

レイラ様の代わりなどこの世のどこにも存在しておらず、そのいないはずの存在が無理やりそこにいたことが、彼らにとってどれほど不愉快だったことか。
その表れとしてどれだけの嫌味、嫌がらせを受けてきたことか。



「彼らはアナタにずっと会いたがっていました。少なくとも彼らにとって私はアナタの代わりではありませんでした」

「そうかしら。…でもそうね。確かにアナタの言う通り、アナタは彼らにとって、私の代わりではなかったのかもしれない。けれど、この6年で少なくともアナタとして彼らと新たな関係を築けているでしょう?私とはまた確実に違う関係を。それが私は羨ましいの」



ふふ、とどこか寂しげに微笑むレイラ様がゆっくりと私から両手を離す。



「私が失った6年の間にアナタたちは仲を深めたのね。アナタは確実に私とは別の意味で彼らに大切にされているのよ」



悲しげにこちらを見るレイラ様に私は胸が痛んだ。
知らぬ間にできてしまっていた私たちの関係にレイラ様はきっともどかしさを感じているのだろう。



「ウィリアム様もセオドアも、みんなアナタを求めています。アナタを愛しています。私はあくまでもアナタの代わりとしてここにいることを許されている存在です。もうすぐその幻は消えます。アナタの失ってしまった6年を埋めていた存在は消え、何もかも元通りになるのです」



だから何も心配する必要はない。レイラ様はレイラ様らしくいればそれでいいのだ。
そう思いながらもレイラ様をまっすぐ見れば、レイラ様はどこか不安げだったが、嬉しそうにその瞳を細めた。



「ありがとう。私の代わりがアナタで本当によかった。アナタが私の場所を守ってくれたおかげで、私は私の帰るべき場所に帰れるわ」