あのね


あのね、帽子を買ったんだ。


家の近くの古着屋さんで、半額になってたの。


黒いリボンがついた可愛い帽子。


日曜日にその帽子をかぶって、出かけたんだけどね。


突然風が吹いて、飛ばされちゃったんだ。


ふわふわって風に飛ばされていく帽子を追いかけてたらね。


全く知らない場所に来ちゃって。


それでも帽子は飛ばされていくから、私、ずっと追いかけてたの。


ようやく帽子が落ちたのは、古ぼけた踏み切りの線路の上だった。


拾いにいこうとしたとき、目の前を電車が横切っていって。


あともう少しで私、ひかれるところだったんだ。


踏み切りは鳴ってなかった。


きっと、故障してたんだろうね。


電車が去った線路の上で、私の帽子がぺしゃんこになってたの。


その踏み切りの近くに、枯れた花束が置かれていてね。


そのすぐそばに、黒いリボンのついた帽子をかぶって、笑ってる女の人の写真があったの。


もしかして私、この人に呼ばれたのかな。


一緒には行けないや、ごめんね。