あのね


あのね、影が伸びてたんだ。


日が暮れて、辺りが夕焼けに染まったころだった。


長く伸びた私の影が目に入って、早く家に帰らないとなって思って。


歩いていたら、履いてた靴のヒモがほどけちゃったの。


しゃがみこんで、靴ヒモを結んで立ち上がったんだけど。


歩こうとしたら、足が全く動かないんだ。


なんでだろうって思ってたら、後ろに誰かの気配がしてね。


少しだけ振り返ってみたの。


視界に入ったのは背の低い子供の姿。


深く帽子をかぶって、うつむいてて。


顔は見えなかったけど、その子は私の影を踏んで後ろに立ってたんだ。


もしかして、この子が影を踏んでるから動けないのかなって思って。


でも、どうにもできないから、どうしようって困ってたら…。


「何してるの?」ってお姉ちゃんの声がしたの。


そしたらね。


足が動くようになってたんだ。


影を踏んでた子供は、いつの間にかいなくなってたんだけど。


あの子はいったいなんだったんだろう。


影を踏まれたままだったら、どうなっていたんだろうね。