新婚旅行江戸日和

翠さんが指差す先を私は見る。男女が楽しそうに話しながらある建物の中へ入って行った。建物の暖簾には見覚えのあるマークがある。あれはーーー。

「温泉?」

「そう。銭湯だね。江戸時代は混浴が現代よりも多かったから、カップルのデートスポットとして人気だったんだよ」

「そうなんだ」

私も行きたいな、と言いかけてやめる。混浴ってことはみんな裸だ。翠さんの裸を不特定多数の女性が見ることになる。そんなの嫌だ。

「銭湯の他にはあったの?」

「もちろん。お祭りとかかな。江戸時代の人たちも現代人に負けず劣らずイベントが好きだったんだ。イベントには多くの人が集まる。それが男女の出会いの場にもなっていたんだよ」

出会いの場。それを聞いて私の頭に過去にナンパをしてきた男の顔が蘇る。

「ナンパとか江戸時代にもあったの?」

「あるよ。江戸時代は現代と違って経験が豊富な人の方がモテたんだ。経験人数=異性からモテるってことだからね。みんな経験を積もうとナンパをしてたみたいだね。お金持ちのお嬢様とか一部の人は許されなかったみたいだけど」