いつか「ほんと」になれたら

 呪文を詠唱してからかなり長い時間、異空間を彷徨ったように思う。
 魔力が減っていくのを感じながら咲凜のことだけを考える。呪文の載っていた古代の魔法書によれば、魔法は意志によって強化されるのだと言う。つまり、咲凜に会いたいと強く強く念じ続ければ、成功率も高まるということだろう。

 

 会いたい。咲凜に会いたい。夢の中じゃなくて、今度は本物の人間として。
 どうせなら、咲凜の目の前に現れてみたいな。
 そして驚いた顔が見たい。喜びを隠し切れないようなあの表情が本当に好き。
 
 遠くから見ているのも幸せだったけど、声が届かないのはもう嫌だ。
 守られているだけじゃなくて、僕が咲凜を助けたい。
 手を繋いで、咲凜を苦しめる全てから一緒に逃げたい。

 会いたい。笑いかけて欲しい。会いたい。手を取りたい。会いたい。会いたい。
 その願いとともに、ありったけの魔力を注ぎ込む。

 
 
 遠い場所を目指して、ずっと広い海を漂っている気分だったけど、ふいにその感覚が止む。
 そよ風が吹いて、木々の揺れる音が耳を打つ。

 もしかして、着いた…のだろうか。