いつか「ほんと」になれたら

「そんなことないよ」

 わたしの呟きを否定する言葉と共に、突然目の前の道路に紋様が現れた。
 よく見ると、円の中に細かい文字やら何やらが書き込まれているようだった。

 
 どこかで見たような形に、わたしははたと思い当たる。
 もしかしてこれは──、魔法陣?


 魔法陣と思しき紋様から、次々に光が零れる。 
 そして、光は青年の姿を形作る。
 
 ふわりと揺れる赤い髪、対照的に白く煌びやかな王子服。
 
 
 開かれた空色の懐かしい瞳と目が合った時、わたしの口は勝手に動いていた。
 
 
「……エリック?」
「咲凜! 会いたかった」

 ここにいるのがさも当然かというように、彼は口元を緩める。
 でも、わたしにはこの状況が何ひとつとして、理解できていなかった。

 そもそも、絵本の王子様であるはずのエリックがどうしてここにいるのか。
 なんで、そんなに優しい表情をわたしに向けるのか。

 
 わたしは、エリックのことをこの2年間、ずっと避けてきたのに。
 

 
「すっごくかっこいい……」
「咲凜の好みならいいんだけど」

 会えて嬉しいだとか、わたしも会いたかっただとか、他にも言うべきことはあったはずなのに、思わず呟いたのはそんな拙い感想。だって、本当にかっこいいんだもん。仕方ないじゃん。

 わたしの語彙力のかけらもない感想を耳にしても、エリックの笑みは深まるばかりだ。


 立ち尽くすわたしの手を流れるような動作で掬い上げて、エリックはそっと口づけた。
 今にも蕩けてしまいそうな、恍惚とした表情に目眩がする。
 
「迎えに来たよ、お姫様」
 
 
 エスコートのように差し出された大きな手を、わたしは今度こそ迷わず取った。