いつか「ほんと」になれたら

「あ……ごめん」

 その瞬間、2人分の視線が僕に向く。その後の驚いた顔はどこかそっくりで、やっぱり兄妹なんだなと思った。

 咲凜は燐人が僕を持っていることにショックを受けている様子だった。…まぁ、そうなるよな。
 仲直りしたいと思っている兄が、自分の宝物を奪ったと知れば、驚かない訳がない。

 
 一方の燐人は、ものすごくこの状況に困惑して、そして自分の知らない自分を責めているようだった。
 燐人はこの事件を狙って起こしたと思っていたけど、もしかしてそれは間違いだったのだろうか。
 

 確かに、僕が咲凜との会話から想像している彼は、こんなことはしない人だったと思う。もっと優しい兄だったし、ごく一般的な善人だったはずだ。

 咲凜はお人好しなところがあるから、相手の本性を見抜くことは正直下手だと感じている。
 でも、仲良くする相手は間違わない。
 
 彼女の純粋さに絆されてしまっているのもあるかもしれないが、咲凜の周りはいい人たちばかりという印象まである。きっと、人を見る目はあるのかな。
  


 だからこそ、僕は咲凜が信じたいと願った、燐人を信じてみたいと思うのだ。

 
「大丈夫、気にしてないから!」
「どうして、」

 やけに明るい調子のその言葉も、全てを振り払うような笑顔も、全部嘘で偽物だ。
 もしも僕がそこにいたのなら、そんな表情は絶対にさせないのに。
 
 
「燐人くんは絶対悪くない。ね?」
「…うん。ありがとう」


 最近、咲凜にたくさん話しかけてもらえる燐人が羨ましい。
 僕たちがまだ会えていた頃、咲凜が好きだと言った相手は僕だったじゃないか。

 
 今日もたったひとり、置き去りにされた夢の中で、脳裏に焼きついた咲凜の声が離れなかった。