翌朝、ふらふらしながら歩く椿の姿をみかけ、声をかけた。
「椿、どこか悪いの?」
「…………」
「お姉ちゃんを心配させないでね」
「………」
ニコッと笑う妃月に椿は震えた。
「妃月様はお優しい。それに比べて……愛想が悪い妹だな」
「さすが汚い愛人の子」
二人のやり取りを見ていた使用人はヒソヒソと話していた。
これは妃月の「妹を心配する優しい姉」を演出するためだ。
周りの評価を上げ、褒め称えられることで承認欲求を満たすために。
朝食を終え、高級車に乗り学校まで向かう。
妃月と椿は由緒正しいお嬢様たちが集う名門校に通っている。「椿も」というのが気に入らないが世間体がある。
椿は生徒たちが高級車で送迎されている中、徒歩通学。
世間体を気にしているとはいえ、一緒に登校なんて御免だ。
毎朝、車の窓から歩いている姿を眺めては笑いがこみ上げてくる。
学校までは片道、車で一時間、徒歩なら二時間。椿より先に学校に着く。
学校でも椿を悪者にしたてあげようとしたが、必要はなかった。
優秀な妃月と比べられ、地味で陰キャな性格もあってクラス中で浮き、孤立しているようだった。
「本当にいい気味だわ」と何度思ったことか。
学校が終わり、今日は生徒や父の弟子がいない日のため、ショッピングをしながらゆっくりと汐倉家の屋敷に帰るとこちらに気付かず、椿がパタパタと走っていた。
気分良く帰って来たのにコイツの顔を見たら不愉快になり、鞄を投げつけると椿の頭にクリーンヒット。
椿は妃月に気がつくと慌てて床に頭をこすりつけながら深く土下座をした。
「大事そうに持ってるのはなぁに?」
箱を開けると最高級の着物一式。
「あんた、また盗んだわね!」
「……ち…ちがっ……くぅっ!……」
「喋るなって言ったでしょうが!!」
椿がこんな物を持っているはずがない。……となると自分の私物を盗んだんだと怒り、椿の髪を引っ張る。
平手打ちをしようと手をあげると「妃月、待ちなさい」ととめられる。
振り向くと妃月の母親が立っていた。
「お母様、だってコイツが私の物を盗んだんですわ。きつく叱りつけるのは当然です」
母親はギロリと椿を険しい顔で睨みつけてから妃月をみた。
「この着物はお義父様たちから汚物にと届けられたものです」
妃月の母親は人前では名前を呼ぶが、普段は椿を汚物と呼んでいる。
「お爺様とお婆様ですか……」
苦虫を噛むような表情になる妃月と母親。
「お爺様たちの機嫌を損ねるわけにはいきません。明日の晩餐にいらっしゃるようです。汚物も同席させろということでしょう」
椿のためだけに用意しましたと言わんばかりの着物の柄は赤い椿。
二人は仕方なさそうに椿を放置し、それぞれ別室に入っていった。
「椿、どこか悪いの?」
「…………」
「お姉ちゃんを心配させないでね」
「………」
ニコッと笑う妃月に椿は震えた。
「妃月様はお優しい。それに比べて……愛想が悪い妹だな」
「さすが汚い愛人の子」
二人のやり取りを見ていた使用人はヒソヒソと話していた。
これは妃月の「妹を心配する優しい姉」を演出するためだ。
周りの評価を上げ、褒め称えられることで承認欲求を満たすために。
朝食を終え、高級車に乗り学校まで向かう。
妃月と椿は由緒正しいお嬢様たちが集う名門校に通っている。「椿も」というのが気に入らないが世間体がある。
椿は生徒たちが高級車で送迎されている中、徒歩通学。
世間体を気にしているとはいえ、一緒に登校なんて御免だ。
毎朝、車の窓から歩いている姿を眺めては笑いがこみ上げてくる。
学校までは片道、車で一時間、徒歩なら二時間。椿より先に学校に着く。
学校でも椿を悪者にしたてあげようとしたが、必要はなかった。
優秀な妃月と比べられ、地味で陰キャな性格もあってクラス中で浮き、孤立しているようだった。
「本当にいい気味だわ」と何度思ったことか。
学校が終わり、今日は生徒や父の弟子がいない日のため、ショッピングをしながらゆっくりと汐倉家の屋敷に帰るとこちらに気付かず、椿がパタパタと走っていた。
気分良く帰って来たのにコイツの顔を見たら不愉快になり、鞄を投げつけると椿の頭にクリーンヒット。
椿は妃月に気がつくと慌てて床に頭をこすりつけながら深く土下座をした。
「大事そうに持ってるのはなぁに?」
箱を開けると最高級の着物一式。
「あんた、また盗んだわね!」
「……ち…ちがっ……くぅっ!……」
「喋るなって言ったでしょうが!!」
椿がこんな物を持っているはずがない。……となると自分の私物を盗んだんだと怒り、椿の髪を引っ張る。
平手打ちをしようと手をあげると「妃月、待ちなさい」ととめられる。
振り向くと妃月の母親が立っていた。
「お母様、だってコイツが私の物を盗んだんですわ。きつく叱りつけるのは当然です」
母親はギロリと椿を険しい顔で睨みつけてから妃月をみた。
「この着物はお義父様たちから汚物にと届けられたものです」
妃月の母親は人前では名前を呼ぶが、普段は椿を汚物と呼んでいる。
「お爺様とお婆様ですか……」
苦虫を噛むような表情になる妃月と母親。
「お爺様たちの機嫌を損ねるわけにはいきません。明日の晩餐にいらっしゃるようです。汚物も同席させろということでしょう」
椿のためだけに用意しましたと言わんばかりの着物の柄は赤い椿。
二人は仕方なさそうに椿を放置し、それぞれ別室に入っていった。



