「花音ちゃんに告白したいって話?」
「まあ、たぶんそう。なんていうか、自分が好きって気持ちばかりで……その先を、ちゃんと考えてなかった」
「……藤乃くんの恋愛力が高いとは思ってなかったけど……小学生みたい。付き合いたいなら、ちゃんと言葉にしないと。ね、ママさん」
「は?」

 葵が花屋の入り口に顔を向ける。
 そこには、箒を脇に抱えた母親が、両手で顔を覆って肩を震わせていた。
 いたのかよ……気づかなかった……!

「ふふっ、おかしい……藤乃、あんた、そこから……ふふ、あははっ……」
「わ、笑いすぎだろ!!」

 恋愛相談を母親に聞かれるなんて、恥ずかしすぎる……!
 しかし母親は爆笑したまま、動けなくなってるし、葵も呆れた顔で作業を続けている。

「まあ、好きならそう言って、お付き合いを申し込んでらっしゃいな。うちも由紀さんも今さら反対なんてしないから」
「それもうプロポーズじゃん」
「藤乃くんももうすぐ三十なんだから、先のことを考えずに付き合うのはどうかと思うよ」
「葵までかよ! じゃあ、お前は朝海とそういう話してるの?」
「してるよ」

 葵はしれっと微笑んだ。
 タブレットを俺に返してからカウンターのリボンを片付ける。

「私が朝海くんと同じ警察官になるって言ったときは、めちゃくちゃ反対されたけど、ちゃんと説得したし。今は公務員試験の勉強、見てもらってるの。試験に受かって、警察学校出て、配属先が決まって落ち着いたら――私が三十になる前くらいに結婚できたらいいねって、そういう話してるよ」
「マジか……。まあ、あいつ、真面目そうだもんな」
「うん。朝海くんがちゃんと考えてくれてるから、私も中途半端な気持ちではいられないよね」

 ……花音ちゃんは、どうだろう。
俺が真剣に話したら、きっとどんな答えでも、ちゃんと真剣に返してくれる気がする。

「よし……頑張るか」

 そうつぶやいたら葵が、

「ないと思うけど……もし振られたら、理人と一緒に焼き肉おごってあげるよ」
「そうねえ、私もないと思うけど……振られたら、ひと月くらい休みあげるわ。ないと思うけどね」
「縁起でもないこと言わないでくれよ!」

 ……なんなんだよ、うちの女たちは。
 マウスを置いて、椅子から立ち上がる。
 ちょうどお客さんが入ってきたので、気持ちを切り替えて、笑顔を向けた。